「クラシックなグラスロッド」と、「最新のグラスロッド」について、
ちょっと書いてみようと思います。
「クラシックなグラスロッド」といっても、1950年代から1970年代にかけての、いわゆるグラスロッドの黄金時代に生産されたものと、
それ以降、いわばグラファイトロッドの全盛期になってから、過去のゴールデンエイジのグラスロッドをできるだけ忠実に復刻したり、当時のアクションや外観をイメージして製作されたロッドに分けて考えないと、考察する意味がなくなってしまうと思います。
過去のゴールデンエイジに生産されたロッドは、ごく少数の例外を除き、そのほとんどが大メーカーによるプロダクション品でした。
言い換えると、「そこら辺のどこにでもあった、普通の釣竿」です。
フライフィッシング自体が釣りのジャンルの中では当時から少数派だったので、本当の意味で「どこにでもある」というには語弊がありますが、その中に、普及品から高級品までの商品ヒエラルキーがありました。
このゴールデンエイジのグラスフライロッドについては、おもに英語で書かれたものですが、文献や資料がかなりたくさん存在しているので、今回は割愛しようと思います。
ひとこと書き添えるならば、よくできた当時のグラスロッドが適当なメンテナンスさえ怠らなければ現在でも十二分に現役のフライロッドとして使えるのは、クラッシックバンブーロッドと同じです。
リプロダクションロッド
2000年を過ぎた頃から「コレってなんだかなあ」と思うしかない、「ネーミングとコスメティックばかりが過去の有名なロッドと同じ」というだけの、本質を見失ったマーケッティングから企画された中途半端なリプロダクション・グラスロッドが、国内外の、いわゆる大手メーカーから繰り返し販売され続けています。
オリジナルを知るものにとっては、使ってみると落胆するしかない、そういう「マガイモノ」についての批判を書きかけたのですが、その手の話は書いていてもつまらないので、ここではあえて取り上げないことにします。
私がいま、ここで語るべきなのは、ノスタルジックなゴールデンエイジのグラスロッドを、そのスペックと性能をできるだけ忠実に再現したものと、
グラファイトロッドの登場によって進化を止めてしまったまま忘れられたようになっていたグラスロッドに、新たなグラスロッドの可能性を追求した最先端を行くロッドについてだと思います。
本当の意味で、過去のロッドをリプロダクションするには、当時のロッドの図面的なデーターのみならず、その竿が作られていたときに使われていた治具などが必要になります。
もうひとつは、当時と同じグラスファイバーの素材がいまもなお手に入るかどうか、ということです。
そこまで揃っていて、はじめて本当のリプロダクションということが可能になるわけですね。
この中でいちばんハードルが高いのは、なんだと思われますか?
最も手に入りにくいものは、当時のデーターでも治具でもなく、グラスファイバー素材そのものなのです。何十年もの時の流れの中で、当時使われていたグラスファイバー素材は、さまざまな理由があって現在ではほとんど使われなくなってしまいました。
1950~60年代に、グラスロッドブランクの主流であったタバコグラスとも呼ばれる、フェノールレジン、つまりフェノール樹脂を使ったGFRPは公害問題が原因で生産されなくなり、いまではごく一部の工業用資材として使われているだけです。
その後、ポリエステル樹脂を使ったグラスロッドが一時生産されていたのですが、わずかな期間のうちに、物理特性の面でより優れたエポキシ樹脂を使ったロッドに置き換えられてしまいました。
60年代頃から使われ始め、その後のグラスロッドの主流となり、現在のグラファイトロッドでも使われているレジン(樹脂)がエポキシ樹脂です。
エポキシ樹脂は、その汎用性の高さから、さまざまな新しい樹脂が開発され続けている今日になっても、釣竿の素材のみならず、いたる所で使い続けられています。
幸いなことに、会社をやたらと売り買いするビジネスがなかった日本では、グラスブランクを作っていたメーカーの製作治具などがいまだに散逸せずに残ってることも多いのです。
そんなわけで、過去の日本製のエポキシを使ったグラスロッドブランクなら、本気でやる気になりさえすれば、かなり忠実にリプロダクションすることが可能なのです。
そこまでの思い入れを持った個人や、メーカーがあってのこと、なのですが。
たとえば、このロッド、まさに当時の名竿のリプロダクションです。 |
グラスロッドのニューエイジ
そして、グラスロッドの新しい可能性を求めて作られたロッドが、ここ数年、様々なジャンルで作られるようになってきました。
グラスロッドの個性、つまり、グラスロッドの持つ弾性と強度が、ある種の釣りが要求する釣り竿のスペックを満たす素材として最適だということがわかってきたのです。
たとえば、粘りと強度が必要な海の大物用のジギングロッドや、バス用のトップウォータープラグを演出するためのロッドですね。
その流れのなかで、かのラスピークや、スコット、ウインストンがグラス素材でのフライロッドの製作をやめた、70年代後半から80年代の初めに止まってしまっていたグラスロッドの時間が、また動き出したのです。
これらの新しいグラスロッドは、もはや前世紀のグラスロッドのコピーではありません。
同じグラスロッド、という名前は付いているものの、まったく新しいものだと考えた方がいいように感じます。
確かに使われているガラス繊維の組成や物理的特性は同じかも知れません、しかし、グラスロッドを作るためのプリプレグとして考えると、ガラス繊維の径、グラスシートの製法、そしてその繊維をまとめるための樹脂、そのすべてが過去のものからは大きく進歩しているのです。
長くて高番手のフライロッドに関しては、未だよくわからないところがあるのですが、少なくとも渓流で使用するスペックのシングルハンドロッドに関しては、最新のグラスロッドはグラファイトロッドに勝るとも劣らない性能特性を持っています。
グラスロッドが唯一グラファイトロッドに負けるところがあるとすれば、それはブランクにしたときの重さなのですが、これも、フライロッドはただ軽ければいい、というわけではない、という考え方もあるので優劣は微妙だと思います。
バンブーロッドを含めた竹製の良くできたフライロッドが、フライロッドとして抜群の性能を持っているのは、けっして軽いからというわけではありません。重さと反発力のバランスが、フライロッドとしてちょうどいい具合になっているから、だと思います。
ただ、それは、長い年月の経験の積み重ねから来たものだ、といわれると、反論するには苦しいところがありますが、そういうときは、
「フライフィッシングというシステム自体が、竹竿をベースに組み立てられたものだ」
ということで煙に巻くことにします。
その『フライフィッシングというシステム』に、最新のグラスロッドがピッタリはまるのです。
おそらく、質量と反発力のバランスが竹に似ていること、が、その理由だと思います。
余分なものを削ぎ落とした最新のグラス素材は、
『まさにフライロッドのための素材だ』
と言っても、過言ではないと思っています。
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