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『お道具&竹竿マニア』なアングラーが、フライフィッシングをキーワードに、
道具や森羅万象、さまざまなモノ、コト、を『辛口&主観的』な視点で書いています。

2014/01/28

エングレーブの魔術

お正月が終わって、やっと日常のスケジュールに戻ったある日、

「あけましておめでとうございます。なんか凄いものが届きましたよ!!」
 というメッセージがフェイスブックに。


それが、これだったのです。


エングレーブを施された、
Alchemy Japanese Trout Reel


いまから1年以上前のことです。

某タックルメーカーさんの事務所で、金属部分にエングレーブを施されたベイトロッドのグリップを目にした瞬間に、そのエングレーブの放つ魅力に引き込まれてしまいました。

そのエングレーブが、この国の銃器彫刻における第一人者の手になるものだと聞いたときに、カスタムナイフのコレクションを持っていたこともあり、エングレーバーの名前に閃くものがありました。
まさかとは思いながらも、その方のお名前をうかがってみると、やはりというか、想像通りのお名前がでてきたので納得するとともに、あの竹内重利氏が釣りの道具にエングレーブをしていた、ということに驚いてしまいました。

というのは、ご面識はないまでも、いろいろと耳に入る噂では、竹内重利氏は昨今ではほとんど仕事を受けることはない、よほど気に入った銃器にしか彫刻をしない、一見のお客さんからの仕事は受けない、などなど、釣りの道具や、まして私には縁のない方だと思ってたからです。

そのグリップを見ながらエングレーブのことをいろいろ話しているうちに、ふと、手持ちのバイメタル(ロンズとニッケルシルバー)で作ったフライリールにエングレーブを施してみたくなり、そのことを尋ねてみると、

「どうなるかはわからないけど、竹内さんに頼んでみましょうか」
「え、ほんとですか、こんど来るときにリールを持ってきますね」

という風なやりとりで、とにかくリールをお預けすることになりました。


竹内氏からはなんの音沙汰もないまま1年以上が過ぎていきました。

それが、今年になって突然、この作品が届いたのです。











昨年の後半から、グラスロッドを作ることに集中していたので、竹内氏の元に預けていたこのリールのことは、ほとんど忘れていました。


事務所に行って、このリールを初めて目にして手に取ったとき、その存在感の強さと、インパクトの強さにゾクッとして、全身の毛が逆立つような感触が走りました。

竹内重利氏の施したエングレーブは、それほど凄かった。

このリールは、オリジナルとはまったく別物となって帰って来たのです。


「お預かりして竹内さんに送ったものの、気に入ったものにしかお仕事をされないという方なので、実際に仕事をしてくださるかどうかは半信半疑だったのですよ」
「実際のところ、あまり仕事は受けていらっしゃらないですし、頼まれても断った、という話ばかり聞きますしね」
「このリールはすぐに送り返されてはこなかったので、どうなのかなあ、とは思っていたのですが、よかったです」
「竹内さんは、なにか、このリールに感じるものがおありだったのでしょうね、きっと、このデザインが形になるまでに時間が掛かったのでしょう」

などと聞くと、素材のリールがよかったんだ、と嬉しくなりました。
なにしろ、このリール、私のショップの製品ですからね。


ENGRAVED BY S. TAKEUCHI
竹内重利氏のサインが入っています。

おそらく、日本にただ1台しかない、竹内重利氏の彫刻が施されたフライリールです。

あ、実物はもっと凄いですよ。


For Sale 280,000. JPY plus shipping







2014/01/24

グラスロッドを作ってみる その4

最初の試作ブランクをロッドに組み立ててみた。

リールシートまわりのデザインで悩みつつ、
実際に釣りをして、アクションのことでも悩む。


プロトタイプのグリップとリールシート


フライロッドのアクションも、グリップトリールシートのデザインにも、100%の人がこれと認めるような正解はない、と思います。

最低限、実際の釣りに使えさえすれば、そのような細部はどうでもいいことなのかもしれません。
でも、その細部にこだわってしまうのが、フライフィッシングという釣りのための道具を作ろうと思い立ったものの宿命かもしれません。
既存のものに満足できるのならば、あえて新しいモノを作ろうとはしないはずですから。


そんなわけで、暇さえあれば、この竿のどこを弄れば、より自分の中にあるベストなフライロッドのイメージに近いものになるのかを、いろいろと試行錯誤しながら思い悩んでいるわけです。

たとえば、粘土でグリップエンドを作ってみたりして。


紙粘土でグリップエンドを作ってみた。

ひとつ考えられるベストバランスは、エンドをコルクで整形してしまうこと。
リールシートの金具とのバランスを黄金比で取ると、落ち着く。
(この写真は、あえて黄金比からずらしています)

でも、それだと、サイズや形態が、愛用するビヤーネ・フリースの竿のグリップまわりに限りなく似てしまう。
さすがに、それは避けたい。


ひとつ説明するとすれば、この理想とは私にとっての理想であって、決して普遍的なモノゴトを考えた上での最善のもの、というわけではありません。
また、それが万人受けするものかどうかも、私にはわからないことです。
ただ、自分が欲しいモノが無いから、自分の欲しいモノを作る。

市販を前提にモノを作るとき、制作者自身がイイモノだと思えなければ、自信を持ってお勧めできなません。
それを好きか嫌いか、は、皆様がそれぞれお一人ずつの価値観の中で判断してくださると思っています。

料理やファッションと一緒ですね。




金具を後ろに集めてみた。
これもけっこう・・・



ブランクについてですが、

現状でも、

「え、これがグラスロッドなの!!」

という程度には、凄い素質を秘めたブランクなんです。

もうちょっと、ここがこうなれば、フライロッドとしてもっと凄い竿になるのにな、というポイントとアイディアは何点か見つかっています。

ただ、それをフライロッドという製品にしたらどうなるのか、
それは、実際に、新しく設計し直したブランクを作ってみて、それを実際に使ってみないとわからない。

それに、そのアイディアがグラスロッドという製品として、はたして実現可能なのかどうなのかもわからない。


フライロッドの理想って、竿の質量が0で、求める部分に求められるだけのスピードと強さを持った反発力を持ったバネなんです。
その、ありえないモノから、現実の科学や物理学、そして工学の中で実現することが可能なものとして製品に落とし込んでいく。
ある程度の耐久性や、ラフに使われることも考えに入れて。
そして、理想を追求したあまりに、あまりにもとんがった性格で使う人を選ぶというのも、ちょっと考えものです。

フライロッドのレーシングカーを作っているわけではありませんから。
かといって、普通のクルマでもない。
強いていえば、目指すところは『スポーツカー』です。


グラスロッド(グラファイトロッドもですけど)は、自分でブランクを作ることが出来ないので、
そのぶん余計にモノ作りとしての好奇心がそそられて、面白いんですよ。


昨日、このプロトタイプのロッドを使って市川で実際に釣りをしてみました。

ちょっと懸念していた、取り込み時のリフティングパワーは十二分でした。
スパインの歪みによるブレもまったく感じません。
このUDというグラス素材と、メーカーのブランクの設計者は、ほんとうに、すばらしいですよ。








2014/01/22

グラスロッドを作ってみる その3

グラスロッドを作るときのモデルにした竿、その2

MARIO WOJNICKI  227P4
7'5" #4 LINE

この竿もやはり MARIO WOJNICKI のグラスロッドです。
個人的にですが、ウジニッキの最近の竿は、竹よりもグラスの方が好きですね。
まあ、このグラスロッド、お値段もバンブーロッドなみではありますが。

ちょっとよけいな話になりますが、ウジニッキのバンブーロッドでは、SCOTTブランドで始めて出した頃のインターミディエットラップが施されていたセルベックス(だったと思います)の8フィートがいちばん好きでした。





この 227P4 ですが、前掲の 217P4 を少しパワーアップした竿だとウジニッキのウェブサイトには書かれています。

ちなみに、ウェブサイトには次のように説明されています。

217P4
7.2 ft - 4 line - 3 pc. Exceptional rod with a unique taper for fiberglass.
Medium fast, true parabolic action. $1250.00

227P4
Longer and more powerful version of 217P4.
7.5 ft - medium fast - semi parabolic.   $1250.00


しかし、ラインを通して振ってみると、227P4 は、217P4 とはかなり異なったフィーリングをもった竿だということがわかりました。

ウェブサイトにはセミパラボリックと書かれていますが、
実際に振ってみると、セミパラというよりはプログレッシブアクションといっていいと思います。

ティップトップは軽くシャープで、負荷を加えていくと、ブランクの曲がりの頂点が漸進的にバット側に寄ってくることからも、プログレッシブアクションの特徴を持っています。

おそらく、ですが、217P4 はグリップ直上のバットがしなやかなので、状況によっては大型の鱒の取り込み時に不利になる場合があることから、バットを強化したものだと思います。

ホールを入れずに単純に振った場合の固有のラインスピードも、217P4 よりも早く感じますが、同じ4番ラインを使う限り、有効射程距離はほとんど変わりません。
渓流の釣り上がりなどのテンポの速い釣りにも向いています。

ただ、どういうアクションを、パラボリック、セミパラボリック、プログレッシブと分類するかについては、いまだに定見がなく、メーカーによってそれぞれ違う基準で呼び分けているようなので、実際に手にして振ってみるまではわからない、という問題がありますね。


おまけに、この竿の長さは、マリオの基準で227㎝、7.5フィートとウェブサイトに書かれていますが、実際の全長を計測すると、225.4㎝≒7'45" で、表記よりも約0.5inch短かかったのです。

7フィート5インチ =2.2606メートル
ちなみに、7.5フィート=7フィート6インチ=2.28600メートル

どうやら、カタログの書き方はアバウトというか、数値は正確ではないようです。







2014/01/21

グラスロッドを作ってみる その2

グラスロッドを作るときのモデルにした竿、その1

MARIO WOJNICKI 217P4
オーナーネーム入り

1970年代の終わり頃に作られた、WINSTON のいわゆるストーカーシリーズのグラスロッドや、SCOTT POWER PLY のグラスロッドは当時から持っていて、それなりに気に入ってはいたのだけれど、グラファイトロッドや良くできた竹竿を使うようになってからはほとんど使うこともなく、そのうちに1本2本と手元から離れていくことになってしまいました。

あるとき、MARIO WOJNICKI とメールで遣り取りをしているなかで、すごくいいパラボリックのグラスロッドを作ったんだ、と聞いてオーダーしたのがこの竿でした。



MARIO WOJNICKI 217P4
7'2" #4 LINE

この竿は、Mario がありもののブランクを改造したオリジナルロッドではなく、まったくオリジナルのブランクから作った竿だそうで、グラスやグラファイトロッドでは他に類のない逆テーパー構造のバットを持っています。
そのためもあってか、これまでに使ったどのグラスロッドともあきらかに違う感触を持っていました。

グラスロッドに詳しい方の分析によると、この竿の素材はEグラスで、ブランクはラミグラス製であろうということです。

この217P4は、グラスロッドによくある鈍くモッタリした感触や、キャスティングするときにロッドのダルさを感じることがなく、キャスティング中の振幅にブレを感じることもありませんでした。
また大きな魚をランディングするときに胴ブレがすることもありません。
ブレがないということは、製造過程でスパインのコントロールが巧くなされているということです。
例えるとすれば、良くできた竹竿のように抜けがよく、スラックの入らないラインをスムーズに伸ばし、フッキングした魚をスムーズにランディングすることのできる竿でした。


全体的なアクションはマリオの説明どおり、確かにパラボリックで、それにもかかわらず持ち重りも感じません。その頃持っていた往年の Russ Peak のグラスロッドよりも優れていると感じた唯一の竿でした。
これは、Russ Peak のグラスロッドが劣っているということではなく、同じグラスロッドとはいえ、現行の GFRP がより高密度で高強度な樹脂から構成されているゆえに、同じ強度や反発特性を得るために使用する材料の総重量が軽くなっているからだ、と考えています。
簡単に言えば、同じアクションの竿(まったく同じではありませんが)を作ると、より軽くできるということですね。

フライロッドの場合、必ずしも軽ければいいというわけではないようですが、竿を軽くすることのいちばんのメリットは、モーメントが小さくなるので、ロッドティップを加速しやすく、静止させやすいことです。それゆえに設計の自由度が上がることは間違いないと思います。


この竿を手にしてから、再びグラスロッドに興味を感じて、Mario の他のモデルを始め、SCOTTの新しいグラスロッドなど数本を買ってはみたものの、どの竿も一長一短でどこかに不満を感じてしまい、トータルとしての性能では、この217P4以上のグラスロッドは見つからないままになっていました。


竹竿のなかには、同じメーカーの手による竿でも、まれに『これは他のものとは違って断然凄い』と感じるお宝ロッドが存在するのですが、この217P4はあきらかにその類の竿でした。
グラスロッドの場合、ブランクが同じモデルにおける個体差は非常に小さいはずなので、217P4という竿がお宝ロッドだという可能性が強いと思います。

ちなみに、僕がグラスロッドを作るときの参考にした、他の個体の217P4も、やはり凄くいいアクションの竿でした。



2014/01/20

グラスロッドを作ってみる


Alchemy Glass Rod Prototype "75PA"
7' 5" 4P Parabolic 4~5 LINE

フライフィッシング始めてすぐに、自分だけの道具を作ってみたいと考え始めていました。

当時オリムピックが作っていたハーディ・フェザーウエイトをコピーしたリールの塗装を剥いで塗り替えてみたり、市販のブランクとパーツを買ってフライロッドを組み上げたりして、それなりに満足していました。
しかし、それなりの数の竿を作っているうちに、ブランクからのロッドビルディングでは外観が変わるだけで本質的にはとても自分で作ったとはいえないことに気づきました。
そして、より個性的な海外のバンブーロッドメーカーが作った竹竿を使っているうちに、いつのまにかロッドビルディングからは遠ざかっていたのです。

10年ほど前に、使いたいリールが市場には無いからと、アルケミータックルという小さなフライリールメーカーを始めました。
そして、去年、数年ぶりに再起動したフライフィッシングを通じてあらたな人脈が繋がり始め、そのなかで、ブランクの設計からフライロッドを製作する機会を得ることができました。

オリジナルの竿を作りたいのなら、竹を削って竿を作る、という選択肢もあったのですが、百花繚乱の呈をみせるバンブーロッドメーカーに参入するのは僕の仕事ではないだろうと思っています。
また、それ以前の問題として、メーカーとしてある程度の数の同じものを生産するには、グラスもしくはグラファイトを素材として竿を作ることが現実的な選択でした。




ブランクから設計して、なんてえらそうなことを書いてても、しょせんは「しろうと」です。
ブランクの芯になるマンドレルの設計、シートのカッティングから始まるブランクの設計なんて技術的に高度なことが出来るはずはありません。

だったらどのようにしてブランクを作ったのか、ですよね。

作りたい竿の「見本になる竿」をブランクを作ってくださるメーカーさんに持っていって、
「この竿を基準にして、アクションはおおよそはこんな感じで、ここはこんなふうに変えて」
「素材はあれを使って、セクション構造はこう」
などという、けっこうアバウトな言葉のやりとりで、まずは最初の試作品、一本目のブランクを作るわけです。

(こんないいかげんな発注から、メーカーでどのようにしてブランクを設計するのかは、機会があるときにご紹介できたらいいな、と思っています。)


メーカーから出来上がってきたブランクを見て、曲げて、振っただけでは、それがいったいどんな竿になるのかはまったくわかりません。
とにかくフライロッドの形にして、フライラインを振ってみて、実際に魚を釣ってみて、評価して判断するしかないのです。

その試作品の竿が所期の目的を満たしているのなら、それでOK、あとは量産化すればいいだけです。

でも、この竿ってなんだか違うな、と感じたら、その違う部分をメーカーに伝えて、その違和感を解消するように設計を変更したブランクを作ってもらい、そのブランクを竿に組み上げて、またテストです。

この、試作して、テストして修正すべきポイントを見つけ出して、それを修正してテストする。
これはそう簡単なことではありません。
竹竿を作ったことのある人ならわかると思うのですが、フライロッドという竿は微妙なもので、どこかを弄るとその部分だけが変化をするというのではなく、竿の全体にわたって違うものになってしまうのです。

ヘタをすると、弄れば弄るだけ竿がおかしくなってしまう、という無限のループに嵌り込まないとも限りません。


ところで、僕が作っているこの竿ですが、試作第一号で予想もしなかったバランスの取れたすばらしい竿が出来てきました。
ただ、最初の設計意図からはちょっと外れたものなのです。

さて、どうするべきか、悩みどころです。

2014/01/01

2014年 あけましておめでとうございます


フライフィッシングを再始動した2013年。
あたらしいご縁があって、以前から企んでいたモノゴトが動き始めました。

ちょっと楽しみな新年です。


Mario Wojnicki のP(パラボリック~セミパラボリック)シリーズのグラスロッドと